
デニムが物語る歴史を再現する
はじめに
SAABの核とも言えるデニム加工の技術開発(通称ディベロッパー)として、数多くのブランドからの信頼を得ている野口。学生時代から好きだったデニムの仕事がしたいと、当時採用募集をしていなかったSAABに直談判し入社したという経歴を持つ。デニム作りのすべての工程が楽しいと語る野口に、SAABでデニムを作る楽しさや目指す未来を聞いた。
Text:Sayoko Iimuro Photo:Jun Katsumata

仕事内容(前職〜SAABの強み) 01 : SAABを選んだ理由
ーーお仕事の内容を教えてください。
野口:
デニム加工の技術開発、SAABではディベロッパーと呼ばれる部署で働いています。大きく分けると2つの仕事があり、1つはお客様からの依頼を忠実に再現する仕事。今は7つのブランドを担当していて、毎シーズンお客様が目指すデニムの加工レシピを考え、安定して量産できるよう提案しています。そしてもう1つは、新技術の開発です。年に2回行われるSAAB主催の展示会にて、お客様に向けて新たな加工技術をお見せできるよう、開発に勤しんでいます。クライアントワークだけに止まらず、自分たちの感性をもとに新たな表現を発信していける環境はすごく楽しいですね。
ーーSAABに入社した理由は?
4年制大学卒業後、子ども服のOEMの営業として働いていました。しかし、アルバイトでデニム屋さんで働いていた経験から、せっかくアパレル業界で働くなら自分の好きなものに携わりたいと考え、転職活動を始めました。デニムの製造に関する仕事で都内から通える会社はほとんどなく、SAABを見つけて即連絡。当時は採用募集をしていなかったので一度は断られてしまったのですが、諦めきれずに電話して「どんな仕事でもいいので!」と直談判しました(笑)。段ボールからデニムを出したり、洗い用の石を運んだりといった仕事から覚え始めたある日、社長と話す機会がありました。前職で営業をやっていたこと、SAABではいつか技術開発に携わりたいと話したところ、「やってみなよ」とのお言葉をいただき、5ヶ月ほど現場で加工を学んだ後、ディベロッパーに異動になりました。
SAABの魅力(仕事のおもしろさ) 02 : SAABで働くおもしろさ
ーーデニム加工の技術は、どう学んだのですか?
デニムが好きというだけで加工の知識は0だったので、道具や洗いに使う薬品を覚えるなど、基礎の基礎から先輩方に教えてもらいました。SAABで引き継がれてきた技術を一つひとつ覚えていくのですが、最初の頃は何をしても時間がかかってしまい、1日かけて1本が仕上がるスピード感でしたね。今もまだ修行の日々ですが、1日に5本ほどは仕上げられるようになりました。

ーーデニム加工の面白さを教えてください。
デニム加工は、繊細な技巧の積み重ねです。毎回使用する生地は違いますし、加工する日の気温や水温などによって仕上がりも左右されるもの。マニュアルがあったとしてもマニュアル通りにいかないことも多いのです。でも、僕はそこに面白さを感じています。例えば、洗いを1分追加しただけでも、削りを1工程足しただけでも、表情は大きく変わります。なので、技術の引き出しを増やし、自分の経験から来る判断を信じて進めるしかないんですよね。だからこそ、目指したイメージにたどり着けた時は達成感でいっぱいになります。
さらに、毎年デニムの生地は1万種類ほど新しいものが開発されるので、加工技術も更新し続けないといけない。その終わりのなさも、面白いですね。
ーーSAABで働く面白さは?
デニム漬けな日々を送れることです。僕、デニムづくりの全工程が楽しいんです! 会社にあるヴィンテージサンプルを毎日チェックして、自分たちが加工したものと見比べながら「どうすればよりクオリティ高く再現できるか」をメンバーとディスカッションする時間も楽しいですし、世界的なトップブランドから毎シーズン見本となる古着を送ってもらうことも、トレンドにいち早く触れられるのでワクワクします。そのほかにも、ヨーロッパへの買い付けやグローバルブランドへの提案などで海外出張の機会もあります。
僕らが作るデニムというアイテムは、老若男女問わず、そして貧富に関係なく世界中で手に取られているアイテムなんですよね。2000円で買えるものもあれば、何十万の価格がつくものもある。1つの生地から生まれる価値の幅広さはデニムならではだと思いますし、SAABはどの価値を持ったデニムでも作れる、技術の幅広さが魅力だと思います。

SAABの強み 03 : SAABの強み
ーーSAABの強みを教えてください。
そもそもMade in Japanのデニムへの世界的な評価はとても高く、最高峰のイタリアと並ぶトップレベルであると言われています。そんなMade in Japanを作る加工場は日本にもいくつかありますが、SAABが国内外のお客様から評価していただく点は加工技術と安定性ですね。
技術力の中でも特に、色の出し方やレイヤーの重ね方が、他のMade in Japanと比べて突出しているのではないかと僕は思っています。デニムの価値の最高峰としてヴィンテージがありますが、なぜ価値があるかと言われると、長い歴史の中で培われたグラデーションによる奥深さだと思うんです。最初はどのデニムも、インディゴ1色。それが長い年月をかけて履きこまれ洗われることで色合いが薄れ、履く人の体型がヒゲとしてあらわれ、生活によってダメージが入り…とさまざまな要素が掛け合わさり、唯一無二のグラデーションが生まれます。

僕たちは、その長い年月を飛び越えるように加工を施していくわけですが、例えば洗いを1回かけたものと10回かけたものでは印象が見違えるんですね。一本一本の糸の色落ちにムラが生まれ、質感が変化し、さらに手作業による削りを入れることで、何層にも手をかけたならではの陰影が生まれる。これが、なんとも言えないかっこよさを生むんです。
さらにSAABでは、受け継がれてきた手作業の職人技に最新テクノロジーを掛け合わせることで、精巧で質の高いデニムを安定的に、より多く世の中に届けることができます。
創業当時より世界のトップブランドを顧客にもち、その商品を作り続けているというのは、デニム業界における相当な信頼の証だと思っています。

未来 04 : 今後の目標
ーー今後の目標を教えてください。
デニムづくりにおける、日本一と世界一の両方を目指したいです。
具体的には、まずは日本のデニムと言えば岡山というイメージを覆し、「Made in Japanデニムの最高峰は平塚のSAABが作っている」という認知を広げたいですね。さらに、品質の高さを保ちながら安定して量産できるところは、海外の加工場にも勝ちえる強みだと自負しています。そして今後グローバルな場では欠かせないサステナビリティへの取り組みを強化することで、きっと世界でも名をあげる会社になっていけるはずです。
課題としては、海外は技術開発がすごく進んでいるので、僕たちディベロッパー部隊が先導し、海外の加工場に追いついていかないといけないですね。技術力や開発力でも世界のトップクラスに入り、世界一を目指します。
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